首吊り自殺の踏み台に使われた百科事典
主人公とパートナーが、いつものように談話室で他愛のない掛け合いに興じていると、パートナーの脅かしが過ぎて、気絶してしまう主人公。
誰かに揺り起こされ主人公は正気を取り戻すと、そこに見知らぬ少年が立っていた。
「都立赤川高校2年の高田純男といいます」
純男は、学校の課題で実際に起こった事件を調べることになり、その手がかりを追って野々宮図書館にやってきたのだという。
彼の追っている事件とは、5年前に起きた一家心中事件。積み上げた本を踏み台にして首吊り自殺をしており、その本がこの図書館に寄贈されているとのこと。
主人公の脳裏に一冊の本が浮かぶ。書庫の整理でさっきまで手に取っていた相当に分厚いかなり頑丈そうな、百科事典である。
開いてみると女性らしい優しい文字で「友紀」と書かれている。
図書館に集められた死に関わる本たち。
その断片を垣間見ることができる数少ないチャンスかもしれない…
そう思った主人公は、純男の調査を手伝うことにした。
互いに調査を進めてみて、純男が明日の朝に電話をくれる約束をする。
高層ビルの建設現場にて
百科事典の寄贈主について尋ねると、田所さんから「あまり深入りしないように」とたしなめられる。
一家心中で死んだ古川加津子は三人姉妹の長女で、本を寄贈した彰子は三女であるらしい。
純男から学校の用事で同行できないと連絡があり、一人で本の寄贈者である平山彰子の職場へと向かった。
見上げるばかりの鉄骨。
そこは高層ビルの建設現場だった。
そこには、田所から連絡を受けたというパートナーが待っていて、“いつもの掛け合い”を彰子の部下にあたる持田和彦に見咎められるも、彰子に会いに来たことを伝えると事務所まで案内してくれる。
事件について、かいつまんで説明すると、綾子は大きくうなずき、思い出すように語りはじめる。
「一家心中なんて…、話を聞いたときは信じられなくてしばらく方針状態だったわ。特に、下の忠男君は友紀と同い年でとても仲が良かったの」
友紀とは、平山彰子の娘だったのだ。
現在22歳になるという。
腕の良い設計士。彰子の多忙さを察した主人公は話を切り上げ、持田に見送られて建設事務所を後にした。
友紀を追って
持田から友紀のことについて話を聞き、友紀の通っている大学へと向かい、友紀のバイト先である「キャバレー・フリーダム」を突き止め向かう。
カップルの客がよほど珍しいのか、いぶかしげに突き刺さる店員の視線が気になるものの、友紀を訪ねてきたことを告げると控え室らしき部屋へと案内してくれた。
むせかえるような香水の匂いが漂う小さな部屋。
胸元の開いた赤い服。
茶色に染められた髪。
口元に淡い笑みをたたえて主人公とパートナーを出迎える友紀は、
いかにもこの店で働く女性に相応しい風貌だった。
一家心中事件のことについて尋ねると表情を消す友紀。
「そんなことを今さら知ってどうするわけ? 死んだ人が帰ってくる?」
友紀にとっても思い出したくない事件だったのだろう。
「でも、今生きている人たちの思い出の中に帰ってくるかもしれません」
意外な主人公の答えに感情の昂ぶりを収めるものの、仲の良かった忠男の死と、生き残った自分の不甲斐なさを嘆くばかり。
友紀を残したまま、部屋を出た。
薫との対面
古川加津子の妹、青梅陽子の自宅を訪ねる。
「事件があった日は、姉さんの家に行く約束をしたんだよ。前の日に電話があって、どうしても話したい事があるって」
翌日、古川邸に赴くと、1階の居間で古川加津子と夫の三哉が死んでおり、驚いた陽子はそのまま家を飛び出した。長男の忠男と長女の治子がそれぞれ自分の部屋で首を吊っていたこと、一家そろって死んでいたことを知ったのはその後のことだったという。
「どうして家族がバラバラに死んでいたのでしょうか」
主人公の疑問に対して、もう思い出したくもないといった表情で、古川邸の鍵を差し出した。
純男に導かれ、古川邸に足を運ぶ。中に入り、あらためて心中事件について考えてみる。理由は分からないが、家族はバラバラに首を吊っている。夫、妻、二人の子供…それぞれの部屋を入念に調べる。
それぞれ別々に別の場所で首を吊っている…4人同時に首を吊ったとは考え難い…
ではいったい、誰が最初に首を吊ったのだろうか?
そのとき、乾いた音とともに窓ガラスが砕け散った。