復活の書
ある日の昼下がり、図書館を幼い少女を連れた老女が訪れてきた。
株式会社 白川産業
代表取締役社長 白川照子
渡された名刺にはそう書いてあった。
一流企業の社長を前に驚く主人公たちに、老女は一冊の本を差し出す。
来栖という専務が、会社の自室で見つけたもので、もともと照子が専務時代に使っていた部屋から見つかった本なので、照子のものであろうと持ってきたものであるという。
ラテン語で綴られ、『復活の書』というタイトルであること。
照子が幼い頃に母親から聞かされた詩が載っており、照子もその部分しか内容を知らない。
この本を得てから、照子が亡き夫の夢を見るようになったこと。
この野々宮図書館に持ち寄られる本にしては平凡な経緯である。
胸をなでおろすのも束の間、照子は主人公が恐れていた…いや、その内容はともかく不吉さにおいては十分に予想できていた台詞を呟いた。
昨晩、この本を見つけた男、来栖専務が会社の屋上から飛び下り自殺をしたという。
顧問弁護士の田所さんが留守にしているので6日後にあらためて来てもらうことを約束し、ひとまず照子にひきとってもらうことにする。
しかし、優柔不断な主人公は、本を預かってほしいという照子の申し出を断り切ることができず、一時的に預かることになってしまった。
5日後の夜、寝つけずにいる主人公は、無人のはずの執務室の方でする物音に気づく。
鈍器で殴られ、薄れゆく意識の中で、主人公は片腕の人影を目撃する。
仮面の男…!?
白川産業
意識を取り戻すとすでに朝になっていた。
「何も盗られていない?」
荒らされているのは疑いようもない。しかし、何も盗まれてはいない。
そう、昨日照子から預かった『復活の書』を除いては…。
パートナーに電話をし、白川産業で落ちあう約束をし、駅に向かった。
秘書と無理やり気味に話をつけると社長室から言い争う声が聞こえる。
「翔子を返してくれ」
「来栖を殺したのだって、お前なんじゃないのか!」
開け放たれた社長室のドアから現れたのは屈強な男と、会社の重役と思しき男。オロオロするばかりの秘書。
3人の男たちを尻目に、照子と主人公とパートナーの3人は、静かに話のできる屋上へと向かう。
屋上に着くと、主人公の訪いの理由を聞く前に語りはじめる。
先ほど社長室で怒声を放っていた一仁のこと。
その妻であり照子の娘、亜砂のこと。
亜砂の浮気相手、野田のこと。
先日、図書館につれて来ていた孫、翔子のこと。
複雑そうな家庭事情に気後れしながら、主人公は昨夜の出来事を語ると照子の表情がみるみる強張ってゆく。
血の気が失せ、震えながら「秘書の安藤が昨夜、真っ暗になった社内で足を引きずりながらうごめく来栖の姿を見た」という。
そして、その顔には、『泣きの面』と呼ばれる仮面がつけられていたという