アメリカのウインチェスター・ハウスは、他に例を見ない特異な建造物である。この館を建てたのは、ウインチェスター銃を開発した一族の1人、サラ・ウインチェスター(1839〜1922)である。 ウインチェスター銃は、西部を征服した名銃とも言われ、オリヴァー・ウインチェスター(1810〜1880)が開発した。彼の会社が製造するレバーアクション式ライフルは、南北戦争や西部の開拓者などに広く使われ、銃器のベストセラーの1つとなった。もちろん、オリヴァーと一人息子のウイリアムは、一躍大金持ちとなった。サラは息子のウイリアムと結婚し、このセレブな一族の一員となったのだ。結婚相手が死の商人ではあっても、普通であれば何不自由のない一生を送ったであろう。 しかし、1866年、生まれたばかりの娘アニーと死に別れた頃から、サラの心に変化が生じる。1880年に義父オリヴァーが、そして翌年夫のウイリアムが立て続けに死亡すると、サラは、自分たちの一族は呪われているのではないかと怯えるようになった。 思い余った彼女は、ある霊媒に相談してみた。霊媒は言った。 「ウインチェスター銃で殺された人々の霊が、あなたの家族を呪っています。霊をなぐさめるため、その住処となる館を建てなさい。建設工事を停止してはいけません。もしそうしたら、あなたは死んでしまうでしょう」 サラは、盲目的にこの言葉に従った。1884年、カリフォルニア州サン・ホセの家屋を買うと、莫大な遺産を惜しげもなくつぎ込んで、1年365日、1日24時間間断なく、終わるあてのない増築工事を続けさせた。もとより最終的なイメージなどないから、思いつきのままに次々と部屋が建て増しされ、どこにも通じない階段や、開いても壁があるだけという奇妙な構造物もたくさん設置された。最後には、迷路のように入り組んだ160もの部屋ができ、建設業者でさえ、地図がないと迷ってしまうほどになった。館がこれほど奇妙な構造になったのは、住み着いた霊を迷わせるためだとも言われている。 しかし、工事開始から38年後、サラ自身が死亡するとともに、工事も終了した。この奇妙な邸宅は、今ではカリフォルニア州の観光名所の1つになっている。 参考:Amanda O'Neill『Gods & Demons』Grange Books http://www.winchestermysteryhouse.com 羽仁 礼 PROFILE 島根大学卒業。少年時より超能力や死後の世界などの不思議な現象全般に関心を持ち、 長じては世界を放浪して数々のミステリー・スポットを実際に踏破。 現地調査に基づいた独自の研究を続けている。 著書に「超常現象大辞典」(成甲書房)、「図解近代魔術」(新紀元社)ほか。←戻る |
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