日本では、キツネは不思議な神通力を持ち、人を化かしたり、人にとり憑いたりすると信じられてきた。 キツネが霊力を持つという考えは、本来中国で生まれたものらしく、伝説の九尾のキツネも、中国から日本に渡ってきている。 九尾のキツネは玉藻の前という絶世の美女に化け、当時政治の実権を握っていた鳥羽上皇(1103〜1156)の寵愛を受けたが、結局陰陽師である安倍泰成(あべのやすなり)に正体を見破られ、退治されてしまう。 九尾のキツネほど強力ではないにしても、キツネが人にとり憑くという物語は、平安時代に編纂された『今昔物語』にも多く収められている。現代でも時折、こっくりさんをして遊んでいた中高生がキツネに憑かれたという事件が報道されるほどである。 キツネにとり憑かれると、コンコンと鳴きながら飛び跳ねたり、油揚げを好んで食べたりなど、キツネに似た行動を示すようになるという。時には、目がつり上がったり、口が裂けたりして、容貌までキツネに似てくるともいう。 民間信仰においては、普通のキツネとは別に、クダギツネとかオサキギツネという特別な動物の存在も信じられている。これらは、名前こそキツネとついてはいるが、本物のキツネよりずっと小さな、イタチのような形をした小動物とされる。一説にはオコジョのことであるともいわれるが、もしかしたら、肉体を持たない霊的な動物かもしれない。 これらの動物は、ある特定の家系や術者に養われており、こうした人間たちの意を受けて他人にとり憑き、害をなしたり病気にしたりすると信じられている。 キツネが人間にとり憑いた場合、普通であれば霊能者や修験者に頼んで祓ってもらうことになるが、キツネは犬をこわがるので、犬をけしかけるという民間療法もある。さらには、憑かれた人を逆さに吊るして松葉でいぶしたり、棒などで叩いたりして痛めつけることで、憑いたキツネを追い出すという荒療治もあるが、この方法を行って、憑かれた人が死んでしまうという事件が、現代でも時折発生している。 参考:石塚尊俊『日本の憑きもの』未来社 小松和彦『日本妖怪異聞録』小学館ライブラリー 羽仁 礼 PROFILE 島根大学卒業。少年時より超能力や死後の世界などの不思議な現象全般に関心を持ち、 長じては世界を放浪して数々のミステリー・スポットを実際に踏破。 現地調査に基づいた独自の研究を続けている。 著書に「超常現象大辞典」(成甲書房)、「図解近代魔術」(新紀元社)ほか。←戻る |
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