Interview

ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-
三好 輝先生&西森英行さん 対談インタビュー

『ジャンプSQ.』2023年9月号に掲載された、原作漫画/三好 輝先生&脚本・演出/西森英行さんの対談インタビュー。原作ファンを公言し、「昨日全話読み返してきました」と話す西森さんに、先生が「えー!」と声をあげて驚く一幕もあるなど、約1時間半に及ぶ初対談は、ファンの方にお届けしたいお話でいっぱいでした。そこで今回、本誌に掲載しきれなかった部分を、番外編として特別公開! ぜひ発売中の「ジャンプSQ.9月号」と合わせて、お楽しみください。

『モリミュ』のおかげで、ウィリアムも血の通った人間であることを再認識できました
対談インタビュー

――西森さんが原作で好きなエピソードは?

西森 『一人の学生』が大好きで、あの話は絶対に入れねばならないと思いOp.3の第三楽章に持っていきました。ウィリアムもシャーロックもある種の大義というか、自らの志に正直に生きている人たちですが、そんな彼らがこのエピソードのようにちょっと生活感を漂わせてくれることで、「彼らも僕らが生きる地平線上に立っているんだ」という実感が湧いてくる。そこがすごく素敵だなと思うんです。

ほかにも『モリアーティ家の使用人たち』や『モリアーティ家の休日』といったエピソードが入ることで、作中のみんなも生きているんだと安心するんですよね。そういう温度感があるところも、本作の魅力だと思います。

三好 『一人の学生』に関しては、シャーロックに「犯罪卿が義賊だろうと捕らえるべきだ」と確認させるために入れたエピソードでした。

加えて、列車内で殺人事件を解決する『二人の探偵』とは別のアプローチから、ふたりが協力してひとりの青年を救い、導いてあげるお話にしてはどうかな、と。ちなみに、後ろに描いた噴水は滝をイメージしたものです。

――『モリミュ』を手掛けるうえで、西森さんが大切にしていることは何でしょう?

西森 先生が提示された“余白”をどう埋めていくか、俳優さんの肉体を通してそこをどう見せるか、ということをまず考えています。そのため台本を書く際も稽古を進める際も、この場面でこのキャラクターはどういう気持ちだろう?というのを、キャストやスタッフと論じることがとても多いです。

またOp.1からこだわっているのが、“民衆の物語”にするということ。Op.1の冒頭でアンサンブル演じる市民を客席から登場させたのは、観劇しているお客さまを憑依させた存在として、彼らが物語の大事なボールを持っていることを表す狙いがありました。

本作では、スーパーキャラクターであるウィリアムやシャーロックによって、人々や世界がどう変わるか、『最後の事件』に至るまでを描いています。そのため民衆にはリアクションする側として、生き続けていてほしいんです。

…などと話していますが、今日改めて、三好先生が天才肌なのだと痛感しまして。とにかく僕はいち凡人代表として、原作からいただいたものを「なるほどっ!」といかに噛み砕くかに、エネルギーを注いでいます!(笑)

三好 いやいや、『モリミュ』を作る天才が何をおっしゃいますか!! それに第一部が完結している今だから言えますけど、Op.1の上演当時は、ウィリアムが何を考えているのか、まだ明確にはわからない状態でしたよね。そんな投げっぱなしのなか、西森さんもウィリアム役の鈴木勝吾さんも、原作から汲み上げたもので彼の人間らしい部分を表現してくださった。こちらとしてはそれが非常にありがたかったですし、ウィリアムも血の通った人間なんだということを再認識できたんです。

そしてやっぱり原作でも、そこは描かなければいけないところだよなと思わされたんですよね。当初はミステリアスなダークヒーローのほうがカッコいいし、読者も内面の葛藤は知りたくないのではと、描かないつもりでした。でも『モリミュ』にヒントをいただいて、漫画ではどう表現しようかと考えていったんです。

――そのほかに先生が『モリミュ』から影響を受けたことはありますか?

対談インタビュー

三好 キャラクター一人ひとりをより丁寧に描こう、と思うようになりました。描き手としては、例えばウィリアムが街を歩く1コマがあったとき、名もなき周囲のキャラクターは優先度が低く、多少崩れていようがそれっぽい人物がいれば絵として成立するんです。

でも『モリミュ』でアンサンブルさんたちが役を演じてくださったことで、そんな一人ひとりにも生活があって、あの世界に生きているんだと、キャラクターに命が宿った感覚を受けました。ジョンだって、作品的にはシャーロックあっての彼という側面があるけれど、ジョンにはジョンの人生がちゃんとあるわけですよね。だから私も「名もなき街の人たち」を単なる記号ではなく、もっとちゃんと生きている人として描かなければという意識になりました。

西森 なんて素敵なお話…。演劇をやっていて良かったです!

――ちなみに西森さんから原作サイドに確認されたことは?

西森 恣意的に考えてしまうことがあるので、キャラクター一人ひとりがどういう心理線を辿っているかなどは、常に確認いただきながら進めるようにしています。そのやりとりでも特に覚えているのが、Op.3制作時、僕が「シャーロックにももっと弱者救済的な感覚があるんじゃないか?」と考えてしまったこと。担当編集の由井さんから「それはこういう理由で違うと思います」と丁寧にご指摘いただき、納得して修正することができました。

由井さんの指摘はいつも的確で、やりとりも毎回楽しいんです! おかげで作り手である三好先生にもお客さまにも齟齬のない作品にできると、安心感があります。

「想像通りのものが来た!」と感じた、Op.4の三つ巴
対談インタビュー

――Op.4の制作エピソードを教えてください。

西森 前回の稽古中、勝吾が「歌詞を頭から全部解釈したい」と、アルバートと歌う『罪深き我は…』のウィリアムの気持ちを、1行ずつ詰めていったことがありました。すると勝吾が、「石に打たれ歩く荊道」という歌詞で、「突然主観から客観になるから歌いづらい」と言ったんです。

確かにと納得しつつ、ここはウィリアムが自分の姿を一瞬客観的に垣間見る様子と、イエス・キリストがゴルゴタの丘に向かうモチーフとして入れておきたいから、脚本的にはこのまま行きたい。だから「どうしても歌えないときのために、違う歌詞を作って、ただすけさんにも差し替え用のメロディを用意してもらうから、勝吾も行けるだけ頑張ってみてくれないか」と話して、本番に漕ぎ着けました。

そういう、勝吾にしか見えない景色があるんですよね。もちろん彼の案を全部採用するわけではないけれど、彼のやりたいことが実現できると美しい景色が生まれることは、僕も経験上わかっているので、そこにどう寄り添えるかは注力している部分です。

対談インタビュー

――では先生がOp.4で特に印象に残ったシーンは?

三好 終盤のミルヴァートンの屋敷の場面は、想像通りのものが来た!と感じました。私は舞台に関してまったくの素人ですし、西森さんが毎回想像の上を行くものを作ってくださいますから、『モリミュ』でどう表現してくださるかはあえて考えず、毎作純粋に楽しみにしているんです。

でもあのシーンだけは、「こうやってもらえたらいいな」というイメージが自分の中にあって、それにバチッとはまったものになっていました。

西森 嬉しいです。あそこはキャストとスタッフのこだわりが集結したシーンでした。当初ステージングのベースをMAMORUさんが付けてくださっていたのですが、俳優陣が「一度自分たちで考えたい」と、3人で考えたものを持ってきて。それを元にMAMORUさんに整え直していただきました。

また照明の大波多(秀起)さんは、「3人を三角形にして、三つ巴を演出したい」と提案してくださって。照明さんがそういうことを言い出すのは珍しく、それもやってみましょう!と採用しました。

さらにただすけさんは、「雷鳴がドカン!と鳴るところに、OPのフレーズを入れ込みたい」とおっしゃり、「よっしゃあ、それで行きましょう!」と。やっぱり大事なシーンですから、みんなの熱の入り方も一入でした。

三好 照明さんのこだわりまで詰まっていたとは、驚きです。実は私、『モリミュ』の照明が大好きで、DVDを流しながら照明だけを見続ける遊びをしたことがあるんですよ。「あー…ここの照明、天才!」って(笑)。

西森 大波多さんは、俳優さんの演技が立っていると、自然とプランが浮かぶタイプの方なんです。しかも、“見せない”こともお上手で。普通なら見えるはずの位置に立っていても、見せないように計算できるんです。

三好 劇場によって広さなども違うのに、ですか?

西森 そうなんです。「これで見えないと思います」と言うので、嘘!?と思うんですけど、「本当に見えないや…!」と驚かされます(笑)。

Op.5のクライマックスは、連載当時から構想を練ってきました
対談インタビュー

――先生は毎公演、あえて台本を読まれていないとお聞きしました。

三好 ただただ、お客さまと同じ感覚で楽しみたいだけなんです。なので、大事なことは全部担当さんにお任せさせてもらっています。

西森 先生は『モリミュ』含め、各メディアミックス作品をSNSでも丁寧に応援してくださって、ありがたい限りです。

三好 私としては、関わりすぎないように一歩引いているつもりではあるんです。脚本に関しても、担当さんは携わられていますけど、私は絶対口を出さないと決めています。

本作は作者の頭の中が絶対正解というわけではないですし、何より原作者が口を出しすぎることで、「本当はこうしたいけれど、先生はああ言っていたからな…」と、アイディアを潰してしまうことになりかねないじゃないですか。作者本人はきっとそこまで深く考えていない発言でも、そうやって呪いのように足枷を作ってしまうのが嫌なんです。

ほかにも、例えば『モリミュ』では衣裳に関する質問をいただくことがあるのですが、プロの衣裳さんはどういう色の照明が当たるとその生地がどう見えるか、ということまで把握されていると思うんです。だから形についてのイメージはお伝えするものの、自分自身が詳しくない生地などに関しては、お任せしたほうが絶対いいと考えて、そうお願いしています。

編集 最初に先生にミュージカル化のことを伝えた際、『テニミュ』の話をしましたよね。許斐 剛先生は脚本をまったくご覧にならないと。なぜかというと、カンパニーのことを信頼しているから、全部任せているんだそうです。

三好 カッコいいですよね…! その結果あんなに素晴らしい作品が生まれているわけで、担当さんと「自分たち素人は何も言わず、皆さんにお任せすることが、いちばんいい結果に繋がりますよね」と話していました。

西森 作り手側としては、本当にありがたいです。そもそも僕らは原作の大ファンですから、無用な傷つけ方をするつもりは毛頭ありません。それに『憂国のモリアーティ』はお客さまとの共有財産であり、一緒に育んでいくべきもの。

だから三好先生はお任せしますとおっしゃってくださるけれど、僕らとしてはキャラクターの想いや物語を守らなければという信念があるぶん、やっぱり原作を大事にしてしまうんです。これもある種の信頼関係の築き方かなと思います。

――Op.5の音楽についても聞かせてください。

対談インタビュー

西森 ただすけさんとの音楽打ち合わせは終えていて、そろそろ初稿が上がってきます。ここからの約1カ月は、僕とただすけさんのやりとりが続く期間。「ここはこう延長したい」「ここは何小節省きたい」「ここは市民がメインだからこういうメロディにしたい」…と、楽譜を通してただすけさんとやり合う時間が、これまた楽しいんですよ。

僕も相当勇気を出して、「ただすけさんなら、もっとイイのが出る!」とリテイクをお願いすることもありますし。もちろん無闇に修正を頼むわけではなく狙いがあるのですが、ただすけさんはそれにしっかり応えてくださり、ベストな音楽を作ってくださいます。本当に全曲素敵ですよね。

三好 ちなみにただすけさんは、どういった経緯で『モリミュ』に関わってくださったのですか?

西森 マーベラスさんの提案で、最初の布陣からいらっしゃいましたね。あんなトリッキーな曲作りができる方は、なかなかいないです。

三好 しかもミュージカルは初めてということですものね。それを奏でるピアノとヴァイオリンのおふたりはどこから?

西森 Op.3でピアノを担当してくれた広田(圭美)さんが元々ただすけさんの仕事仲間で、Op.3以外を弾いていただいている境田(桃子)さんは、広田さんからご紹介いただいたと聞きました。ヴァイオリンの周ちゃん(林周雅)は、Op.1当時まだ学生さんでしたけど。

三好 土曜日にTVを付けたら林さんが出演されていて、驚きました(笑)。

西森 周ちゃんはセリフを喋りたくて仕方なくて、Op.4ではついにアドリブで喋っていましたね(笑)。

三好 そうやって公演を追うごとに、みんなのキャラが立っていっているところも、『モリミュ』は素敵です!

(完)

ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件- 公演情報

■原作
構成/竹内良輔 漫画/三好 輝『憂国のモリアーティ』(集英社「ジャンプ SQ.」連載)

■脚本・演出
西森英行

■音楽
ただすけ

■出演 鈴木勝吾、平野良/久保田秀敏、山本一慶、井澤勇貴、長江崚行、大湖せしる/
鎌苅健太/七木奏音、髙木俊、根本正勝/

伊地華鈴、大澤信児、木村優希、熊田愛里、柴野瞭、白崎誠也 高間淳平、竹内一喜、永咲友梨、中村祐輔、蓮井佑麻、山下真人

Piano境田桃子
Violin林周雅

■公演日程・会場
大阪/メルパルクホール 2023年8月24日(木)~27日(日)
東京/天王洲 銀河劇場  2023年9月1日(金)~10日(日)

■チケット発売中!
ローソンチケット https://l-tike.com/m-moriarty-op5/