オーストラリアのメルボルン市で芸術区域の中心に位置し、ビジュアル・パフォーミングアーツの名門大学として知られる「ヴィクトリア・カレッジ・オブ・アーツ(VCA)」。美術・ダンス・演劇・映画&テレビ・音楽、そして劇場制作分野の楽士課程及び大学院課程、博士課程とショートコースを開講しているこの学校の起源は、1867年のビクトリア州国立美術館芸術学校創立時にまで遡るという。現在、VCAへの出願者の上位わずか5%だけが入学を許可されているという、まさに難関中の難関。 そんなエリート校をモデルに、VCA全面協力のもと制作されたのが本作である。
監督のギャバン・ヤングを始め、撮影カメラマンのマーデン・ディーン、コスチュームデザイナーのメラニー・リーズ、そして出演者のポール・アシュトンとダニエル・マロニーがドラマ科で学士号を取得している同校出身者。監督自らの卒業時期から製作がスタートしたことを考えると、長編初監督作品という困難さを乗り越える意味でも、実際の校舎を使い、本物の生徒が出演して授業シーンを撮影するといったこの協力体制は、非常に力強いサポートになっていたに違いない。
日豪合作となるこの映画は、それぞれの専攻を持つ5人の学生が、芸術学校を舞台に、さまざまな困難を乗り越えて成長していくという青春ストーリー。日本からは演劇科の隆役に杉浦太陽、美術科の千穂役で高橋マリ子が参加。互いがこれまで日本では見せたことのないイメージで主人公を演じ、共に鮮烈な印象を残している。また、共演するオーストラリアの若手俳優らのフレッシュさも相まって、芸術学校でのユニークな毎日をリアルに再現。自由な空気の中で切磋琢磨していく等身大の若者たちを、色彩豊かに、ポップでキュートな映像で包み込んだ作品に仕上がっている。
入学から1年後、果たして彼らはそれぞれの夢を持ち続けることができるのか?
日本人現地スタッフとして唯一参加したヘアメイクの吉田裕美氏が作り上げる、カラフルなファッションに合わせた16種類のネイル・アートは圧巻。スタイリッシュで疾走感のある映像に、さらに華やいだ雰囲気を盛り込むことに成功した。
オーストラリアと日本とを仕事で行き来する日々を送っていたプロデューサーは3年前に、メルボルンの芸術学校VCAの音楽科に通う女の子と出会い、ユニークな学校生活の話を聞いた。入学すら難しい超エリートでありながら、留年が許されず、多くの生徒は「間引き」と呼ばれる強制退学を恐れて日々必死で勉強しているという状況を知らされた彼女は、この現実を映画にできないかと模索。当時VCAに通い映画製作をしていた学生の中から、独特の色彩感覚と映画製作に欠かせないさまざまな才能を合わせ持ったギャヴィンに監督として白羽の矢を立てた。
当時2年生だったギャヴィンは、急学を決意し来日。活動の拠点をオーストラリアから東京へ移し日本人との交流をはかった。そして海外留学を希望する人に“学ぶことの難しさ”を知って欲しいという思いで本作の脚本に着手。半年後に完成した脚本は、リアリティに満ちた“学生たちの今”を切り取ったものとなった。
2005年9月22日、日豪合作映画『Academyアカデミー』クランクイン。撮影開始の2週間ほ ど前から、現場を勉強したいとの理由で現地入りしていたのは高橋マリ子。8歳までアメリカで暮らし、バイリンガルの彼女にとってメルボルンでの撮影生活は何の問題もないと思っていた矢先、彼女の相手役「マシュー」のキャスティングでひと波乱。現地で決定していた役者がイメージに合わないということから、急遽キャスト変更になってしまった。人材のシューティングまで約10日間。高橋マリ子自身も街中でスカウト活動をするなど、慌ただしい現場は、かえって本作のイメージを掻き立ててくれるきっかけになった。杉浦太陽をキャスティングしたのは、日本滞在中のギャヴィン自身。これまでの杉浦のイメージをくつがえすようなハードな役柄に、当初は難色を見せていた彼も、現地スタッフからの熱いラブコールに応える形で合流。どこか中性的でセクシャルな主人公・隆を体現したキャスティングとなった。
VCAの教室を使い、教師や生徒たちの協力のもと撮影完了。キャラクターを奥深く追求する監督は、過酷なカリキュラムと厳しい選定の中にあっても、表現することの素晴らしさと開放感を役者ひとりひとりに、その都度味わせる演出を心がけていたという。