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あとがき



 我が王国が、国史編纂室を立ち上げたとの話をうかがった時、
私はとるものもとらず、主人を頼って王宮へと参内し、編纂室の戸を叩いておりました。

 しかし、王国の保管する貴重な資料をひとつひとつ修復し、翻訳を試みた結果、
我が王国の歴史を正確につづることは不可能であるとの結論に至りました。

 編纂室は間もなく解散しましたが、
私は、様々に語り継がれてきた水晶の魔女の物語に心を奪われてしまっていました。

 帝国、法王庁、古代技術、永遠の命を持つ者たち、水晶を扱う技師、無敵の魔法使い……。
そうした記録の断片が結びつき、いつの間にか私の想像の中では、
水晶の魔女やフェリクスやイアンたちが、生き生きと動き始めていたのです。


 編纂室のメンバーであった方々のご助言もあり、
この水晶の魔女の活躍を、まったく新しい物語として執筆することになりました。

 皆様もご存知の通り、女神と水晶の魔女(作中、皇女ロズマリン)との戦いの傷跡は深く、
文明は一時この地上から完全消失したといわれております。

 文明消失の暗黒時代に多くの記録は失われてしまったため、作中の聖暦の年代も定かではなく、
 ロズマリンをはじめとする主要人物らの名前も姿も、私が後から考えたものに過ぎません。

 私たちの歴史は、一度途切れました。
本当は何があったのか? どのような苦しみが、喜びが当時の人々の胸にあったのか?
今の私たちに、それを知るすべはないのです。

 しかし、私たちひとりひとりは、ただのひとりの例外もなく、
過酷な時代を生き抜いた祖先たちの命を、その体の中に確かに受け継いでいるのです。

 これより先、私たちが歩んでいる今は、およそ千年後の物語です。
私たちのたどって行く物語の終わりが、幸せなものであることを祈って――。


 この物語の最後に――。
貴重な資料を提供してくださった、オットリーノ・オールト・オットー伯爵と
素敵な挿絵をつけてくださった、アーノルド・アーシア氏と、
そして、この物語を最後まで描き遂げれるように応援してくれた
最愛の夫、キリアン・キルウェイ大尉に、心からの感謝を送ります。

 そして、今を共に生きている、あなたに――。



キルウェイ夫人著