世界大戦の火種がくすぶる昭和12年秋、
帝国陸軍の結城中佐によって、スパイ養成部門“D機関”が秘密裏に設立される。
機関員として選ばれたのは、超人的な選抜試験を平然とくぐり抜けた若者達。
彼らは魔術師のごとき知略を持つ結城中佐のもと、
スパイ活動に必要なありとあらゆる技術を身につけ、任地へと旅立っていく。
「死ぬな、殺すな」——
目立たぬことを旨とするスパイにとって、自決と殺人は最悪の選択肢であるとするD機関の思想は陸軍中枢部から猛反発を受けるが機関員達は世界中で暗躍し始める。
そんな“D機関”と真っ向から対立する、帝国陸軍の精神を備え陸軍士官学校を卒業した生粋の陸軍軍人で構成され「躊躇なく殺せ、潔く死ね」を掲げる諜報組織“風機関”が設立される。
「ダブル・ジョーカー」はいらない——どちらか失敗した方がスペアだ
諜報戦を制するのは、一体どちらか。
「ダブル・ジョーカー」
元外交官で親英派の白幡樹一郎に、陸軍の機密である〝統帥綱領〟を盗読したとの容疑がかけられる。
蒲生次郎は白幡と旧知の間柄である英国領事アーネスト・グラハムに接触し事の真相を探るが、グラハムがスパイ行為を行っているという確たる証拠はまったく見あたらない。
「ワルキューレ」
ベルリン中心部のヴィルヘルム街。
俳優兼映画監督の逸見五郎は、日独共同製作映画のお披露目パーティーに参加していた。
自身の主演する「スパイ」をテーマにした映画について、独自の「スパイ自論」を交えて語り、サインを求めてきた内装屋の雪村幸一をスパイではと発言する。
実はその指摘を受けた雪村こそ、防共協定を締結しながらも情報戦にてドイツの後手に回されてきた日本軍のスパイであり、任務の一つである『新日本大使館の"清掃"』をしていた所だったのである。