僕の名前はMr.エリート。
なぜエリートなのかと問われたなら、答えはただ一つだ。
この僕が超一流の家庭に生まれ超一流の両親に育てられ超一流の幼稚園、超一流の小学校、
超一流の中学校、超一流の高校、超一流の予備校、超一流の大学、超一流の会社と
超一流の人生を歩んできたからだ。
僕は人生の勝ち組になることが生まれた時から決まっていた。
それはすなわち『約束された勝利の人生』!
その辺の一般人とは違う選ばれし者なのだ!
……さて、前置きはこのくらいにしておこう。
今日は僕の一般人とは一線を画す優雅で、ハイクオリティで、薔薇色な、
超一流の一日を余すところなくお見せしようじゃないか。
☆超一流の朝☆
超一流な僕の朝は窓から差し込む爽やかな日差しからはじまる。
目覚ましなんて無粋なものは使わない。
あんなものは自分で起きられない二流のためのアイテムだ。
僕は寝起きにおいても超一流だ。
太陽が一番高く輝き南向きの窓に日が入る頃、自然と目が覚める。
あと五分、いいや十分などと二度寝三度寝で惰眠を貪る二流とはワケが違う。
起きた瞬間からいつでも出掛けることができる。
☆超一流の朝食☆
超一流な僕は朝食にもこだわる。
朝は食べないなどという者もいるが、僕に言わせればそんな考え三流だ。
朝食とは一日の活力だ。
むしろここでどれだけのカロリーを摂取できるかでその日が決まると言っても過言ではない。
超一流の僕は起き抜けであろうと最高級最上級の牛肉をいただくと決めている。
もちろんお気に入りのワインは欠かせない。
☆超一流のお出かけ☆
超一流の僕は時間にもシビアだ。
何もせずダラダラと時間を無駄にするのは四歳児でもやらない。
朝食を素早く食べた後、僕は間をおかずに屋敷を出る。
超一流の人生は常にスケジュールがいっぱいだ。
一分一秒が勝敗をわける。
この日も当然のように勝者となった僕は移動する車の中で勝利を噛みしめる。
このバスという大きな車は広々としていて僕に優雅でリラックスした時間を提供してくれる。
難点を言えば最短距離を通らず、なおかつ要所要所で何度も停車することだが、それもまた一興。
近道ばかりしていては新しいものが見えなくなる。
一見、無駄に思えるこの移動も実のところ僕のような超一流の人間にとっては
思索にふける大事な時間なのだ。
☆超一流のビジネス☆
超一流の僕はビジネスにおいても人の上をゆく。
バスが到着したのは僕のホームグラウンドたる街だ。
現在、僕が行っている複数のビジネスの一つである飲食店はここにある。
ここには多くのビジネスマンがいる。
彼らにとって時間と食事は非常に重要なファクターだ。
栄養価の高い食事は24時間戦う彼らには欠かせない。
しかしながら、食事にかけられる時間はあまりにも少ない。
そこで僕が考えだしたのがこの『牛丼』というファストフードだ。
手早く、美味しく、栄養価の高い食事。
僕の愛する最高級の牛肉とお気に入りのワインがヒントになったことは言うまでもない。
この『牛丼』は言わば超一流の僕から、成功を夢見るビジネスマンたちへのエールだ。
僕のような超一流になろうと日々努力をする彼らの力になりたいと思うのは当然だろう?
☆超一流の休憩☆
超一流の僕は休憩時間も誰よりも有意義に活用する。
自ら定めた短い休憩時間を僕は外ですごす。
僕にとってオフィスはあまり意味が無い。
なぜならばチャンスとは常にあちこちに転がっているからだ。
狭いオフィスに籠もっていてはグローバルな視点が養われない。
ビジネスはなかなか好調だ。
僕の理想を理解するパートナーにも恵まれた。
いずれは彼女にすべてを任せられるだろう。
そうなればあらたなビジネスに乗り出そうと思っている。
そのビジネスとは…
そう『ENJバトル』だ。
この街の新たなシステムに僕はビジネスチャンスを見出している。
たとえば――
「なんてこったあああああ!」
……なんだ?
路地裏に現れたのはビジネスマンの街に似つかわしくないダサい恰好をした男だった。
なによりそのサングラス? メガネ? がダサい。
顔の半分を覆うほど大きなそれは、まるで変身ヒーローのようにも見える。
いったい何年着潰しているのかもわからない薄汚れたスウェットにまるで合っていない。
「勢いあまってこんな恰好で街まで来てしまった!
こんなことなら母ちゃんが見繕ってくれたスーツを着てくればよかった!」
どうやら本人も自分の服装がマズいと気づいたらしい。
服もそうだが、むしろそのメガネをなんとかした方がいい。
「ああ? スーツはおかしいだと? なにを言う!
シャレたビジネスマンの集まる街に来るなら俺もスーツにするべきだろうが!
こう、襟とかビビーン! って尖ってるヤツ!」
しかも、男はひとり言ごと……いやそこにいない誰かとしゃべっているようだ。
アレか? 見えちゃイケないものが見えちゃってる系? 怖っ。近寄らんとこ。
「おい、そこのメガネ!」
「へ……? ぼ、僕かい?」
「そうだ。そのいかにも没個性なメガネをかけたオマエだ」
男が僕に声をかけてきた。
それにしても人のメガネをバカにする前に鏡を見ろ。
「オマエのような地味な野郎に聞くのは微妙に不安だが、
このへんで服の買えるとこはどこだ? かっちょいいヤツだぞ」
「ええと……そこの道をまっすぐ行くとマルQが……」
「おおっ! マルQか! マルQと言えばオシャレに目覚めた大学生の登竜門!
そこならイカしたスーツが手に入るに違いない! いいアドバイスだダサメガネくん!」
「だ、ダサメガネくん……!?」
「よっしゃ、行くぞナビ子!」
男は現れた時以上のテンションでだだーっと走って行ってしまう。
「ゆ、許せない……この超一流の僕に向かってダサメガネだなんて……!」
男がいなくなってしばらくすると、僕の胸のうちにふつふつと怒りがわいてくる。
こうなれば、彼には僕のニュー・ビジネスの最初の実験台になってもらうしかない。
コテンパンにして自分が二流……いや、三流であることを分らせなければ。
そう、ENJバトルで。
「超一流の僕が自ら手を下す……そのことに感謝するがいい、変なメガネのヤツ!」